2024/2/19 vol.47
私が修士1年生頃の話です。
私の研究テーマは、毎分数万回転の高速モータ制御の研究でした。ある日の実験中、発電機とモータをつなぐハブが飛んだ事故を起してしまったのです。厚み10mmの鉄のカバーにできた大きなへこみを見た指導教授からの言葉は今も、忘れることがありません。「君は工学センスがないね。工学をやめた方がいいよ!」 事故は、発電機をはずしてモータのシャフト先端にハブをつけたまま、高速でモータを回してそのシャフトが疲労で折れて、ハブが飛んだのでした。
技術者の能力は知識やスキルだけでは測れないセンスというものがあるのですね。音楽に対するセンスやスポーツに対するセンスがあると同じです。その分野が好きであっても、そのセンスがなければ、望ましい成果を生み出すことはできません。逆に、最初が好きではなくても、その分野に対するセンスがあれば、やっているうちに、成果が生まれ、やがて好きになることが多いのです。
では、センスとはなにか?それは、先のことを見通し全体のバランスをうまく調和させる能力、あるいは、ものごとを感覚的、瞬時にいろいろ対応できる能力のことです。残念ながら、その分野に対するセンスは先天的というか、幼い頃の環境によってほぼ形成されていると私は思います。ですから、まずは自分が従事する分野に対してセンスがあるかどうかを見極めることです。普通の石をいくら磨いてもダイヤモンドにはならないのと同じ理屈です。
当然、ダイヤモンドの石であっても磨かなければダイヤモンドにはなれません。技術者のセンスを磨くには、私は以下の2つが大切だと思います。
1つは、その分野の一流の人・プロのやり方を沢山観察することです。一流のサービスを創るにはまず、一流のサービスを体験しなければなりません。それと同じです。
2つ目は、思考-実践-反省を繰り返すことです。課題にぶつかったとき、どうすればよいかを考え、実践し、その結果から当初の考えを反省し、自らのカン(センス)を磨いていくのです。技術者は、専門知識を持ち、技術で世の中に貢献する人です。知識と技術を駆使するだけなら、機械でもできます。一流の技術者として活躍するにはカン(センス)が必要です。
一般社団法人 日本パワーエレクトロニクス協会
代表理事 楊 仲慶
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