2023/05/1 vol.5
技術者のレベルを測るには、言うまでもなく技術に対する造詣の深さです。つまり技術知識の深さ、技能・経験、問題解決力などです。しかし、一流の技術者になるには、私は技術力と同じぐらい重要な能力があると思います。それは、伝える力です。
大学博士1年ごろのことです。毎日、実験に明け暮れた末、ようやく論文を書き上げることができました。うれしくて先生に持っていたところ、「だめだ。ストーリーができていない」の一言。「実験データも揃っているし、新規性も十分あるはずなのに」と大変落ち込んでいました。実験をさらに追加し文書を書き直して、先生のところに提出したが、1ケ月経ってもなにも返事がなかった。勇気を出して、先生に聞いたところ、「だめだ。なにを言いたいのか、ストーリーができていない」と同じ答え。これを繰り返し、論文を学会誌に出したのは、1年もかかってしまいました。「こんな先生、いじめだ」と随分、不満をもちました。
その後、独立して会社を創業後の話です。優れた新製品開発に対して、国の助成金制度があることを知り、さっそく申請書を書いて提出しました。1月後の合格の知らせは本当にうれしかった。それから、国の助成金を何度も申請して、9割の確率で申請を通ったのです。やはり、大学時代に、ストーリー、つまり伝え力が相当訓練されたおかげだなとつくづく感じたのでした。
私も含め技術者は往々して、自分が分かったことに満足しがちなのです。大事なのは、自分が苦労して研究開発したことを如何にわかりやすく条理よく人に伝えるか、です。人に分かってもらえない限り、まだ本当の成果ではないからです。
一般社団法人 日本パワーエレクトロニクス協会
代表理事 楊 仲慶