基礎パワエレ回路の速習法 | |
受講者インタビュー |
基本的パワーエレクトロニクス知識の共有は、半導体デバイス開発の強みにつながる
技術革新が進む自動車業界、省エネ化、IoT化が急務の産業機器など、各分野でパワエレ開発が激化するなか、ローム株式会社はパワー半導体デバイスへ事業軸を大きくシフトさせてきた。そのローム株式会社が、「技術者のためのパワエレ講座」をオンサイト(講師派遣)セミナーで実施。同社が技術者にパワエレ講座を受講させた理由は何か、パワーデバイス生産本部の伊野和英統括部長と技術主査の三浦義勝氏にお話を伺った。
電動化の波は止まらない、
顧客ニーズに呼応するデバイス開発が急務
― まず伊野統括部長に、統括される部署の役割と専門性をお伺いします。
伊野氏 ロームには、LSI(高密度集積回路)、パワーデバイス、汎用デバイス、オプティカルモジュールという4つの事業部があります。我々の部署はその中のパワーデバイスの事業を担当しています。
当社はもともと抵抗器が創業製品の企業です。現在の社名のローム(ROHM)も、Rがレジスタ、OHMが抵抗の単位Ωに由来しています。抵抗から始まった会社なので、半導体分野へ移行してからも比較的電圧が低く、電流が小さい、小信号のデバイスを得意としていました。
一方で、より市場の成長が大きいところへ移行して行こうということで、10年程前から自動車や産業機器部門の市場を強化しており、2020年までに車載・産機分野の売上げを総売上の50%以上にする目標です。これらの市場ではパワーデバイスのニーズが他の市場に比べ強く、パワーデバイスの事業を強化していっています。
― 次世代技術の開発には、高性能の半導体デバイスが欠かせません。
伊野氏 そうですね。従来のSiパワーデバイスでの高性能化と共に、SiCやGaNといった新しい材料を用いたデバイスの開発、ならびに事業化も積極的に進めており、SiC-MOSの量産は2010年に世界で初めて成功し、自動車や産業機器用途に新しい市場を開拓しています。
― そういった状況で、今回「基礎パワエレ回路の速習法 」セミナーの実施を決めた理由はなんだったのでしょう?
伊野氏 パワーエレクトロニクスの分野は小信号の汎用デバイスとは異なり、よりアプリケーションに入り込んだ営業活動が必要です。当然、開発部門にもアプリケーションを知った上での開発が求められます。パワエレ回路を開発する人が、我々のパワーデバイス製品のお客様になるわけですから、「お客様が困っていること」を知ることが、求められる製品を開発する一番の近道だと思います。もちろん社内にアプリケーション技術関係を研究・開発している部署はありますが、理想はデバイス開発者が、ある程度までアプリケーションを知った上で、開発することです。その素地をつくりたいというのが今回のセミナーを実施した理由です。
― 今までこのようなセミナーを実施されたことはありますか?
伊野氏 社内での実施はないですね。社外では、大学を拠点とする集中講座などを受けたことはありますが、それは全社で5~6名かな、人数を絞って専門性の高いエンジニアが参加していました。また、大学の先生に来ていただいてプレゼンテーションを聞く機会はありますが、セミナーという形でやったのは今回が初めてです。
デバイス開発者に必要なのは、
まずはパワエレの基礎知識
― 伊野様は管理職として、このセミナーにどんな効果を期待されましたか?
伊野氏 普段、忙しくてパワエレの基礎を勉強する機会がないまま、バックコンバーターとかブーストコンバーターとか言葉だけ知っていて会話している技術者に、その中身がどういう動作原理で動いているかという基礎的な知識をまずは身につけて欲しいと思っていました。セミナー後のアンケートでは「ためになった」という声が多く、「紹介された本を自分で買って勉強する」と書いた人も多くいたので、技術者もこういう機会を求めていたのだと思います。これをきっかけに、さらに専門的な領域のお客様のニーズを理解できるようになっていってほしいと思います。
― 御自身もセミナーを受講されていかがでしたか?
伊野氏 イメージで説明するのが分かりやすかったですね。コンデンサを溜池に例えて水を流して…みたいなこととかは、みな理解していると思いますが、インダクタをイメージで説明するのは少ないですね。デバイスも同じですが、セミナーの講義はイメージで説明するから、概要を把握しやすかったですね。専門的に知識を身につけようとしたらイメージだけではなく、最終的には数式で解いて計算値を出す必要があるでしょうが、その前の段階で出た数字が正しいかどうかを直感的に判断できますしね。最初のきっかけとしては分かりやすいと思いました。
― オンサイトセミナーは受講者の移動時間が少ないというメリットがありますが、大勢が受講することで全体の知識の底上げもできるのでは?
伊野氏 そうですね。今回パワーデバイス生産本部から15名、LSIの商品開発本部から10名が参加しました。パワエレを入口だけ理解している技術者には、有効だったと思います。新鮮だったのは、定常状態、平均値で議論するやり方です。過渡状態の複雑な部分は一旦置いておいて、定常状態を直感的に理解するというのが良かったです。定常状態でどういう回路動作になるかは、皆が理解できたと思います。
それと設計根拠を説明してくれるのが良かったですね。普通の教科書ではなかなか知り得ないところですから。もちろん高度な技術は各社のノウハウになるので我々の知るところではないのですが、基礎的なレベルの設計根拠を知るのは勉強になりました。好評だったので、同じような内容でまた開催したいと思います。今回参加の25名は人数を絞っていて希望者はもっと多くいましたから。
― 基礎セミナーに技術者の時間を割くのは難しいですよね。経営的には即成果を求める声もあったのでは?
伊野氏 基礎が分かったところで実務にどれだけ直結するかと問われれば、難しい部分はあると思います。でもパワエレ化は時代の潮流ですし、基礎が分かっていないと先がないですよね。また、例えばデバイス開発者が、必ずしもみながパワエレの専門家になる必要はないのです。ただし、お客様が仰っていることを理解でき、そのニーズを知るレベルの力はみな持っておきたいですね。逆に言えば、今回のセミナーくらいの基礎は知っていないと会話ができません。だから今回の受講者は、お客様に接する機会の多い部門の技術者に絞りました。
基礎的なパワエレ知識を持つことが
デバイス開発におけるクオリティを生む
― ここで技術者である三浦様にお話を伺います。三浦様はどのようなご専門、役割をなさっているのでしょうか?
三浦氏 私の部署は、伊野統括部長のパワーデバイス生産本部に所属しているパワートランジスタ製造部です。この部署はシリコンという材料を用いたトランジスタの開発と製造を行っています。一般家電向けの製品開発もしておりますが、私の担当は、会社の注力分野である車載向けのトランジスタ製品をどう開発してゆくかということと、開発した製品を実際にお客様へ拡販してゆくことが業務です。
― なるほど。三浦様が今回セミナーを受けようと思ったきっかけは何でしょうか? 業務として指示された部分もあると思いますが(笑)。
三浦氏 希望して参加しました(笑)。私はもともと化学を専門としていたので、電気系がそれ程得意ではありません。半導体デバイス開発には、材料系など化学側からのアプローチがありますので、その分野で活動していました。でもパワートランジスタ製品というのは、パワーエレクトロニクス回路の中で使われるものですから、お客様と一緒に回路の話ができれば、より良い製品の提案や開発ができるのではと思っていました。
ただ自分で勉強しようにも、大学の電磁気学とか電気工学という基礎的なところからやって行くと、自分が今やりたい応用のところへたどり着く前に挫折してしまいます。逆に回路の方からアプローチしようと回路関係の本を読むと、今度は基礎が分かっていないので何が書いてあるかよく分からないという…(苦笑)。独学ではなかなかアプローチできずにいた時に直感的な回路の勉強法があるという案内を貰って、これが問題解決になるのではと思い、応募しました。
― 受講してみてどうでしたか?
三浦氏 イメージで説明されると、取っつきにくかった回路の構成がすんなり理解できました。回路の中でも、特にインダクタは分かりにくい感じがあったからです。キャパシタとか抵抗とかダイオード等は動作内容が分かるのですが、インダクタやトランスは、なぜそれがその位置に入っているのか、なぜそういう回路構成にしているのかが分からなかったのです。それが逆転の発想で波形から「こういう波形を出すために、こういう回路構成になる」という形で説明してくれたのが、すごく分かりやすかったですね。
― 化学を専門にする技術者が受ける電気のセミナーとしての難易度はどうでしたか?
三浦氏 適度な難易度だったと思います。演習があったのも良かったですね。我々の仕事では、あまり回路シミュレーションを触る機会がありませんから。専門部隊があるので、今までそちらへ依頼して結果を貰う形だったのが、少し自分で出来るようになったのは大きかったと思います。お客様と話す中で、回路動作の不具合とか、あるいは「もっと良い製品の提案はないのか?」と言われた時など、以前はそのまま専門部隊へ話を持っていくしか、なかったのですが、自分でも少し考えられるようになりました。今は「こういう意見がありましたが、こうではどうですか?」とディスカッションするようにしています。簡単な内容なら私がレスポンスできるようになればお客様も便利でしょうし、会社の強みにもなるはずです。そんなところまでレベルアップできればいいなと思っています。
― 本セミナーはどんな技術者に有効だと思いますか?
三浦氏 私のような製品開発担当はもちろん、基礎的なデバイス開発者にとって有効なセミナーだと思います。回路全体が理解できなくても「こういうセットに使われる可能性のある製品にはどういう特性・特徴が必要か」ということが分かれば、初期の段階からそういった部分にもケアできます。それは製品のクオリティにつながります。
― 今後セミナーを受けるとしたら、どんなことを知りたいでしょうか?
三浦氏 そうですね。もう少し具体的に、現行のパワエレ回路について知れたら良いと思います。この回路にはこういう特徴があって、こういう部品が使われるとか、こういう問題点があるとか。現状大枠で困っている部分が分かれば、それをヒントに新しい製品を考えることができると思います。
伊野氏 たとえば、昇圧コンバータなど教科書によって違う回路が載っていますが、今回は教えてもらったので、回路を見えれば同じ動作だと分かるけれど、多くの形態がある中で、メリット・デメリットがあるはずですよね。その違いが分かれば、デバイス開発の視点から新しい発想ができると思います。
― 基礎を踏まえた応用があればということですね。今後検討したいと思います。
どうもありがとうございました。
伊野和英氏
ローム株式会社
パワーデバイス生産本部
統括部長 工学博士
三浦義勝氏
ローム株式会社
パワーデバイス生産本部
パワートランジスタ製造部
商品開発課3G 技術主査
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