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機械系技術者のためのパワエレ講座
受講者インタビュー

 

 

機電一体の研究・開発を進めるために必要なのは、基礎的なパワエレ知識の共有

 

ハイブリッド車、電動自動車への志向が世界的に拡大し続ける今、次世代型パワートレインの開発は業界の最重要課題だ。その激烈な開発競争の中、独創的なモーターの研究・開発で業界をリードする本田技術研究所では、「機械系技術者のためのパワエレ養成講座」をオンサイト(講師派遣)セミナーで受講した。同社が技術者にパワエレ講座を受講させたいと思った理由は何か、本田技研第4技術開発室の貝塚正明主任研究員と研究員の糸山遼介さんにお話を伺った。

 

 

進化し続けるパワートレインの研究・開発に、

機械系・電気系技術者の会話が不可欠

 

―貝塚様と糸山様の所属は、「四輪R&Dセンター 第4技術開発室 第1ブロック」ということですが、こちらの部署はどのような仕事をしているのでしょうか?

 

貝塚氏 最近日本ではハイブリッド(HEV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などが主流になってきています。我々の部署は、これら電動車両と呼ばれるモーター搭載車の「パワートレイン」という部品を研究・開発しています。具体的にはモーター、インバーター、あとはDCDCコンバーターとかの高圧配電系、それにミッションですね。従来のミッションはエンジンの横についている変速部品でしたが、最近はミッションの中にモータを搭載するという形が多くなっています。そうした進化の方向に合わせて「パワートレイン」という、ミッションとモーターが一体となった部品の研究、設計、テストを行い、これを搭載した車を世の中に出すということを行っています。

 

―今回多くの技術者の方がセミナーに参加されましたが、主にどういった技術者が受講されたのでしょうか?

 

貝塚氏 機械系の技術者ですね、ミッションと言うのは機械なのです。電気では動いていない機械のかたまりですから、ほとんどのミッション技術者は機械系の勉強をしています。例えばギアとかケースとか、クラッチの摩擦だとかという勉強をしてきた人がほとんどです。私自身はモーター屋ですが、モーターとインバーターは電気系なので、電気の勉強が必要です。したがって「パワートレイン」として一体となったとしても、関わる技術者の分野が異なるのです。機械系の技術者は電気が苦手、電気系は機械が苦手ということで、「勉強しろ」といっても気が向かないという状況です。私の感じたところでは、文系と理系が互いに持つ苦手意識以上に、機械系と電気系は抵抗感があるように思います。何かきっかけをつくらなくてはと思い、機械系技術者に理解しやすい電気系の講習を探していた時にパワエレ講座を知りました。ビジュアル的で分かりやすく、しかも自分で操作する実演を交えてやるというので、機械系技術者が導入するには優れたセミナーだと感じました。

 

-セミナーの実施を決めた理由はなんだったのでしょう?

 

貝塚氏 実際に、電動車両がこの先もの凄い勢いで増えていきますので、電気系の人は機械を勉強しなければいけないし、機械系の人は電気を勉強しなければいけない。このセミナーは、機械系の人にとって良い機会だったと思います。どちらかというと、電気系の人が機械の勉強をするのは、それほど大変ではないのです。モーターは回転していますので、機械的要素を持っています。駆動や回転に対して設計時に気をつけなければならないことなんかは、ある程度は分かる訳です。機械系の技術者が電気を学ぶ方が、ハードルが高いでしょうね。まわりがみな電気の専門家という中で、一から電気を勉強するというのは厳しいのではないかと思います。

 

 

機械系技術者に特化した内容を、

オンサイトでやることで全体を底上げ

 

-機械系技術者の知識向上を狙ったこのセミナーにはどのような効果を期待したのでしょうか?

 

貝塚氏 今までのパワエレセミナーと違い、機械系技術者に特化した内容になっているので、分かりやすいのではと思いました。大学の先生や社内のパワエレ専門のエンジニアに「パワエレの講習やって欲しい」とお願いすると、まず間違いなくやるのが教科書を作って順番に説明していくのです。そして大学の先生は、どんどん話が専門的に難しくなって機械系の人は途中で寝る(笑)。パワエレの専門家がやっても、仕事をしながら勉強教材を作るので、やはり内容が高度になって受講者の睡眠を誘導してしまう。

そういう意味では「機械系技術者のため」という切り口は良いと思いました。

 

 

 

-今回のセミナーをオンサイト(講師派遣)で行い、かなりの数の技術者が受講されましたが、オンサイトという手段を取った理由は?

 

貝塚氏 電動領域の拡大で技術者は本当に忙しい。技術者が多忙な日々を送っている中でセミナーを受講するには、オンサイトという形が適していると思います。移動時間もなく、自分のホームグラウンドで勉強できる受講のしやすさが一番のメリットです。

 

-多くの技術者が同じセミナーを受けることで全体的なレベルアップがはかれ、全体的に共通言語が形成されるという面もあったのですか。

 

貝塚氏 そうですね。セミナーを受けるまでは、技術者達にパワエレの知識がうまく入り込むのか少し心配していたのですが、若者から年長者まで、パワエレの知識が全くない人でも聞いていて非常に分かりやすかったそうです。実際にPSIM(回路シミュレータ)を動かす実習も、自分の手を動かしながら学ぶことで理解が進みました。また横関先生が非常に面白く、話しが楽しかったみたいです。授業の分かりやすさとトークの相乗効果で、楽しく理解することができたと聞いています。難易度がちょうど良かったという感想だったので、そういう意味では当初の狙いにぴったりミートしたと思います。「良かった」という声が多かったので、第二弾、第三弾とやっていこうという話に全体でなっています。

 

-本セミナーでは難し過ぎず、基礎を固めることに重点をおいています。でも管理者の方には即成果を求める方もいるはずです。あえて基礎からやることに異議はなかったですか?

 

貝塚氏 うちは部署内に電気専門の技術者と機械専門の技術者、両方のエキスパートを持っている状況です。だから管理者としては、機械系の技術者全員がパワエレのエキスパートになって欲しいと思っているわけではないのです。これからの電動車はミッションの中にモーターが組まれたり、そこにインバーターがついたりという形になってゆく。パワーユニットとして一体になった時に、技術者同士が互いに会話をしなければ開発は進まないのですが、機械系の人に電気系の用語が理解できないと会話が成立しないのです。だから、会話が成立するレベルの知識を持っていてくれれば、非常に良い開発につながります。今日、明日で機械の人にパワエレの仕事が出来るとは思ってはいません。パワエレのエキスパートが何を言っているのか、抵抗でも、インダクタンスでも、静電容量でも何でもいいのですが、そうしたことに対する基礎的な知識を持っていてくれれば会話が通じる、それが重要なことだと思います。こういう成果はすぐに、定量的にいくら儲かったとは言えないことですが、仕事が進みやすくなって、部署全体の業務効率は確実に上がると思います。

 

 

力学との対比説明が

機械系技術者の理解を促進

 

-それでは機械系の技術者である糸山様にお話を伺います。糸山様は第4技術開発室第1ブロックで、どのようなご専門、役割をなさっているのでしょうか?

 

糸山氏 貝塚さんの説明にもありましたが、私の所属する部署は「世界一の電動パワーユニット」の開発を目指しています。そこでパワエレはもちろんですが、モーターやトランスミッション、電動駆動システムの新しい価値などを提案する研究をしています。なかでも私はモーターの技術者として、モーターの研究だけでなく、これまでになかった新しい商品や価値を提案する仕事をしています。

 

-どうしてセミナーを受けようと思いましたか? 業務として指示された部分もあると思いますが、機械系技術者がパワエレ講座を受けることをどのように感じましたか?

 

糸山氏 今回は、自分の方から立候補する形で受講させていただきました。私はモーターの研究を専門にこれまでやってきてのですが、モーターを取り巻くコンポーネントに対する理解が必要だと、日々業務をしながら感じることがありました。特にパワエレに関して、そういう思いが強くありましたね。試験などでモーターを駆動させようとしても、パワエレの制御や構造の理解がないと回せない。「これはパワエレの理解が必要不可欠だな」と思った経験が何度かありました。モーターとミッションの一体化、さらに今後はパワエレがよりコンパクトに、構造的にまとまったユニットとして開発されるようになります。「機電一体」という社会的ニーズがある中で、パワエレの存在はますます近い存在になるので、学ぶ必要性を感じていました。

 

 

-モーターやインバーターなどの単体ベースでは付加価値の出しにくい状況になってきて、一体化したシステムとして研究するためには、モーター屋さんも電気を知る必要があるわけですね。

 

糸山氏 そうですね。モーター屋も電気系の知識を備えている人は沢山いるのですが、パワエレ屋さんに比べると、電気の知識がちょっと弱い部分があります。たとえばPWMなど、制御系を含めて効率が左右されますよね。だからモーターだけで留まっていた電気の知識をもっとパワエレ屋さんが持っているレベルまで引き上げることが必要になってくると思います。現場で研究していて、知識がない部分はパワエレ専門の方に聞きに行ったりもするのですが、そこに少なからぬ時間が発生しますよね。自分の知識で解決できれば…とモヤモヤしていた部分がありました。

 

-具体的にどんな時にパワエレ系知識の必要性を感じましたか?

 

糸山氏 たとえば機械的にやれることを全部やってもモーターの出力、トルクが規定に満たないことがあります。そうすると「流れてくる電流に問題があるのでは?」ということになって。そうした検証をするにはどうしてもパワエレ屋さんの力が必要ですが、聞きに行ってもこちらにパワエレの知識がないと会話が成り立たないのです。

 

-今まで他の研修など受けてきた中で、このセミナーはどんな点が良かったとお感じになりましたか?

 

糸山氏 今回のセミナーは「機械系技術者のための」と銘打たれていて、まずそこに安心感がありました。このセミナーの良かった点は、電気的な法則を物理の法則に置き換えて説明してくれた点です。

 

機械系技術者は、電気は苦手だけれど物理は得意な訳ですから、理解しやすい。たとえば「電圧は力学で言う重力」みたいな説明があると、力学的なことは既に分かっているので「ああ、そういうことか!」と、自分の中で納得できる部分がありました。今までのセミナーでは電気系の知識だけが積み上げられてて…。電気の数式だけがバーッと並んでくると、どうしても苦手意識が働いて頭に入ってこないのです。しかしこのセミナーでは力学と電気を対比させて説明してくれるので、自分の知識を使って直感的に理解できました。これは逆に電気の人が力学を知るにも有効だと思います。

 

 

-難易度はいかがでしたか?

 

糸山氏 前半は座学、後半は実際PSIMを使っての講習ですが、内容的にはちょうどいいレベルで、一部ちょっと高度かなという部分があった感じです。物足りなさは感じませんでした。

 

-基礎的なことだけをやった訳ですが、実際の業務に何か役立った感覚はありますか?

 

糸山氏 教わった基礎的なことをそのまま使うというより、その知識をベースにPSIMを業務に生かしていきたいと思っています。社内にもPSIMを使う人間は多く、使い勝手の良さやレスポンスの早さは聞いていたのですが、自分に知識がなくて使えなかったのです。今回のセミナーで初歩的な使い方を教えてもらって、基本的な回路を自分で組み立ててシミュレーションするところまでできた訳ですから、これを業務に活かして行きたいと思います。PSIMは“物レス”でシミュレーションできますし、レスポンスがとても速いですね。これを使ってモーターに流れる電流の評価だけでなく、モーターに限らず他のノイズとかの検証にも使っていけたらと思っています。

 

 

 

-ありがとうございます。PSIMの特長は全体的な回路がすぐ組めるところだと思っています。現場ではまず「この回路で動くのか」、「どこが問題か」ということが知りたい訳ですから。そういった検証に使っていただければ、まさに狙い通りです。では実際にPSIMを使う実習が良かったのですね。

 

糸山氏 「習うより慣れろ」でやってみる方法が、僕には分かりやすかったですね。講義ではパワエレの代表的な素子も説明してくれたのですが、PSIMには素子自体がプログラムされています。そもそもこのマークの素子が抵抗だと知らなければ、回路に組み込めないじゃないですか。だから回路を選んで組み込んで、線で繋げて回すというのをひと通りやってみたのは良かったです。

 

―電気系技術者には当たり前ですが、そのマークの素子が何を指しているか分からないですよね。

 

糸山氏 たぶん自分を含めて皆、大学時代には習っているのですが、苦手意識でスルーしてしまったのでしょうね(苦笑)。

 

-今後、セミナーを受けるとしたら、どんなことを知りたいでしょうか?

 

糸山氏 今回はパワエレの代表的な素子から、それを使った回路まで教えてもらいましたが、次はパワエレの世界で代表的な制御などが知りたいですね。こういったスイッチング制御があるとどう電流の波形が築かれるとか。

 

-実はその辺も準備済みです。もう少し上のレベルでは、波形を見て回路を作ることができるように、ビジュアルと実習で学習できるセミナーを準備しています。

 

貝塚氏 それはいいですね。これから機械系と電気系の技術者同士が一緒に開発をしていくなかで、会話ができるようになるのに役立ちますね。

今後は、受講するごとに技術者の段階的なレベルアップにつながるセミナーにも期待しています。

 

-どうもありがとうございました。

 

貝塚正明氏

株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター

第4技術開発室 第1ブロック

主任研究員

 

糸山遼介氏

担当:モーターの技術者として新しいモーターや価値を提案・開発

 

 

 

株式会社本田技術研究所様が受講したセミナーの講師情報とセミナー一覧は、こちらから確認できます。

https://pwel.jp/teachers/1