―――「モータ制御」の受講で得られる知識を教えてください。
このセミナのネタは、私の著書である「入門モータ制御」がベースになっています。この本は、自分の研究室の大学院生に読んでもらうという想定で書いたものです。モータ制御の本というと、いきなり制御式が出てきて、制御のやり方を式で説明してある本が多いです。モータの原理から出発して制御式にたどり着くところは書いてないことが多いと思います。数式の意味が分からなくても、数式から出発すればソフトは作れるからです。
でも、大学院生が研究としてモータ制御をやるのであれば、使う式の意味や導出を理解していないと困る、と思ったわけです。つまり、この講座はモータ制御の基本の基本が理解できる知識がつく、という狙いです。
―――「モータ制御」を理解することで、製品設計における利点はなんでしょうか。
今言いましたように、数式があれば、それをソフトにするのはあるレベル以上の人であれば可能です。しかし、その数式が、どの条件で成り立つのか、何を仮定しているかなどが分かっていないと、うまくゆかない場合には大変困ります。会社時代、システムハウスにソフトを外注すると、とても上手に作ってくれました。まったくモータを理解していない人が担当しても結構いいソフトができてきます。でも、製品になって不具合が起きたときには、やはり、モータの制御を理解している人が考えないとわからないのです。このセミナで、そのようなときのための理解をしていただけることを期待しています。
―――森本先生が設計に参画した製品と設計の苦労話をお聞かせいただけますか。
モータ制御の仕事の例としてバッテリフォークのソフト開発の話をしましょう。バッテリフォークは誘導機をベクトル制御しています。私がいた会社は、日本、ヨーロッパ、アメリカに向けてフォークを製造していましたが、世界共通のハードを使って、その地域向けの商品に作りこみます。私がやらされたのは、アクセル操作のフィーリングです。アクセル操作といえば、日本やヨーロッパ向けは速度制御の色合いですが,アメリカ向けはトルク制御の色合いをつけなくてはなりません。アクセルペダルは速度指令器のようなフィーリングが必要です。これをソフトの入れ替えだけでやりたいということです。制御式を考えれば、速度指令とトルク指令なので簡単な話のように思えます。実際、普通に走っている時には何の問題もなくソフトが出来上がりました。しかし、超低速運転、とくに傾斜がある場合に、いろいろな問題が出てきました。ハードでやれば簡単な話ですが、とにかくソフトだけで完成させる、ということで、実車で坂道でのソフトの調整を1か月以上やっていました。制御の論文を書く場合、始動やステップ応答のデータがあれば書けるわけですが、製品開発は普通でないところまで考えなくてはならないのが難しいですよね。